チェス用語にステイルメイトというものがある。
チェスはたくさんの駒を使って、相手のキングを追い詰めるゲーム。
相手のキングを逃げられなくして、とどめをさしたら、勝ち。チェックメイト。
でも。
とどめはさせないけれど、相手を動けない状況にしたというとき……それは勝ちではなく、引き分けになってしまう。
終盤で追い詰めたり追い詰められたりするとき、どんなに一方が優位でも、不利なもう一方はステイルメイトを狙うことができる。
なかなか面白い制度だ。窮鼠猫を噛む、土壇場のドローゲーム。
一日一日にも、とんでもなく不幸や日が、たまにあったりする。大逆転で幸せになろうと望んでも、なかなかそううまくはいかない。
鬱々としたまま、時計の針は進む。
帰り道に雨に降られる。どこかに鍵を失くす。洗濯物の回収を忘れる。食材の消費期限を切らす。浴槽に湯をためようとして、栓をするのを忘れていたのに気づく。
もう嫌になって、寝台に横たわり、それでも生き抜いたその一日を数える。
時計の針が12時を指す。
「ステイルメイト」と私はつぶやく。
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