一 あのころのぼくらは、若かったと思う。 あのころのぼくらは、運命を信じていた。出会うべくして出会ったのだと、揺るぎない絆を放課後の距離に認めた。 あのころのぼくらは、学校が嫌いだった。三人でなら、別の道を走れると思った。 それでも、つむじ風のような春は、やっぱりつむじ風のように、突然止んでしまった。 ぼくらはあの日から、すっかり離ればなれになった。 二 「会おうぜ」 茂(しげ)雄(お)からメールが届いたのは、土曜日の夜のことだった。すっかりSNSに移行していたぼくは、友人からメールを受け取るのなんて久しぶりだったから、危うく迷惑メールとして消してしまうところだった。 心臓が重い鼓動を刻むのがわかった。冬の寒気が、いっそう冷たく感じられた。 宛先のアドレスは、もうひとつあった。香(か)織(おり)のものだと、すぐにわかった。何年も経っているはずなのに、すぐに像を結ぶことができた。あいつはどんな顔でメールを読んでいるのだろう、と思った。 堀切駅のホームから出ると、少し遠回りをして帰ることにした。河川敷の風は冷たかった。駅前の再開発をかわぎりに街はすっかり変わってしまったけれど、河川敷の道は、あのころのままだった。朝焼けの通学路を思い出した。ぼくと茂雄はしばしば学校をサボって、街に出かけて行った。香織はよくそれを咎めたけれど、結局いつもついてくることになった。 三人はよくこの道を歩いた。どこかへ行きたかったけれど、どこへも行くお金がなかった。だからぼくらは地平線までまっすぐ延びるこの川沿いの道を歩きながら、タンポポを摘んだり、キャッチボールをしたり、安いギターで流行のラブソングを歌ったりした。もっとも、給料日前で数千円しかポケットにないぼくは、あのころと大して変わらないのかもしれない。 いつもたむろしていた図書館前を過ぎたころ、またスマートフォンが鳴った。今度は電話だった。通話ボタンを押すと、懐かしい声が聞こえてきた。 「よう、しろちゃん。久しぶりだな。メール見たか」 相変わらず、たたみかけるようにあいつは言った。「見たよ」とぼくは答えた。