ずっと日本で暮らしてきたものだから 言葉が通じない生活にぼくは無縁だった ドイツで暮らし始めたとき なんてすばらしい国だろうとぼくは思った 言葉はほとんど通じなかったけれど ライン川の流れは美しかったし 聖堂が空に繋がっているようだったし 街を行く人たちはすこやかに見えたから 向こうの言葉が少しずつ理解できるようになったころ ぼくは次第にそのときめきを失っていった 壁にかかれた落書きや 新聞に載った悲しいニュースや 人々が口にする悪口がわかるようになった ライン川の流れがよどんで見えたし 聖堂のてっぺんを見限るようになったし 街を行く人たちは疲れているように見えた いつか いつか来るのだろうか この目に映る街を汚した言葉の力が 世界に別の彩りをもたらしてくれる日が